2017年 02月 23日
総合
総合分類なし
健康な人の腸内細菌を移植する腸内フローラ移植療法とは

「腸内フローラ移植療法」で健康な他人の腸内細菌を体内に
潰瘍性大腸炎に悩む患者は、日本で16万人に及ぶとも言われています。潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜に潰瘍ができる炎症性疾患で、下痢や腹痛、血便などの症状が現れます。ストレスや食事の欧米化等の原因が重なることで発症すると言われ、患者に20~30代の若い人が多いのが特徴です。
潰瘍性大腸炎は、現代の医療技術による治療が困難な特定疾患に指定されています。しかし、近年、新しい治療法として健康な人の腸内細菌を移植する腸内フローラ移植療法が注目を浴びています。
腸内フローラ移植療法では、健康な人の腸内細菌を生理食塩水と混ぜ、潰瘍性大腸炎の患者の腸内に内視鏡を使って注入します。患者の腸内フローラに健康な腸内細菌が注入されることで乱れていた腸内のバランスが整い、症状が改善につながると期待されているのです。
腸内フローラが潰瘍性大腸炎の症状を改善した臨床研究
人間の腸内の壁には様々な細菌が生息しています。細菌の種類ごとにまとまっている様子がまるでお花畑のようであることから腸内フローラと呼ばれるようになりました。
腸内フローラ移植療法は、健康な人の腸内細菌の塊である便を潰瘍性大腸炎の患者の腸内に移植することから「糞便移植療法」とも呼ばれ、2013年にオランダで研究結果が報告されてから注目され始めました。
日本でも、2014年から20歳以上の潰瘍性大腸炎患者を対象に臨床研究が実施され、40人の参加者のうち、治療結果が判明している30人中の4分の3に症状の改善がみられたことが報告されています。
腸内フローラ移植療法の副作用?腸内細菌の移植で肥満に!
ここまで聞くと良いことずくめの腸内フローラ移植療法ですが、問題点も指摘されています。アメリカで報告された事例を紹介しましょう。
大腸に炎症が認められた女性が腸内フローラ移植療法を受け、治療に成功しました。しかし、健康な腸内細菌の提供者が実は肥満だったのです。
治療を受ける前、患者の女性の体重は約62kg、BMIは26でした。それまでの人生において、彼女の体重はずっと正常の範囲内で大きく変動したことはありませんでした。
しかし、腸内フローラ移植から1年4ヵ月後、彼女の体重は約77kg、BMはI33と急激に増加。さらに移植から3年後には体重が約81kg、BMIが34.5まで上昇してしまいました。女性は努力して減量や運動を行いましたが、体重やBMIが減少することはなく肥満になってしまったのです。
また、ワシントン大学を中心とした研究グループの実験では、肥満のマウスから腸内フローラ移植を受けた正常なマウスは脂肪量の増加が顕著であるとの報告もあります。
腸内フローラ移植には、体型に影響を与える可能性があるようです。
腸内フローラの解明は糖尿病やメタボの予防、精神疾患治療にも応用できる!?
人間は、腸内細菌の種類や数のバランスを崩すことで、さまざまな病気にかかりやすくなると考えられています。腸内フローラの乱れは、消化器の病気だけでなく代謝や免疫が関わる病気につながるという報告もあり、具体的には、糖尿病や肥満、メタボリックシンドローム、アレルギー、ぜんそくを引き起こす可能性が示唆されています。
そのため、500種類もの腸内細菌が生息する腸内フローラのバランスを改善すれば、さまざまな病気の治癒にもつながるのではないかと期待されているのです。
すでに、腸内フローラ移植療法は消化器をはじめとするさまざまな病気の治療への応用が研究されています。一時的にせよ改善の見られた病気、治癒が確認された疾病の中には、大腸がんや胃がん、さらにパーキンソン病、自閉症などの神経疾患も含まれています。
また、今後腸内フローラの解明が進むことで、必要最小限の成分注入も可能になるなど治療法の進歩への期待も高まっているようです。
他人の腸内細菌を移植することが病気の治療になるという話に驚いた方もいたのではないしょうか。「全ての病気は腸内に起源を持つ」とのヒポクラテスの言葉通り、正常な腸内フローラが健康に深く関わっているという認識は、近い将来、常識になるかもしれません。