2017年 05月 23日
糖尿病
健康コラム
糖尿病腎症の早期診断に役立つ新しい診断マーカー「尿中L-FABP」とは

糖尿病が原因で失明したり、人工透析導入になった話を聞いたことありませんか?糖尿病は、さまざまな合併症を引き起こす危険性のある疾病です。深刻な事態を防ぐには、早期発見が肝です。今回は糖尿病の3大合併症のひとつである「糖尿病腎症」にスポットを当て、早期診断の重要性と新しい診断マーカー「尿中L-FABP」の有用性について紹介しましょう。
糖尿病腎症
糖尿病の3大合併症である糖尿病腎症
糖尿病で怖いのは合併症です。合併症を発症すると全身にさまざまな症状があらわれ、日常生活に影響を及ぼすだけでなく、悪化すると命にもかかわります。
糖尿病の代表的な合併症は「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」で3大合併症と呼ばれています。
糖尿病腎症とは、高血糖の状態が長く続くことにより、全身の動脈硬化が進み、腎臓の糸球体で老廃物をろ過することができなくなる病気です。悪化すると、腎不全に陥り人工透析が必要となります。現在、全透析患者のうち、糖尿病腎症を原因としている人が半数近くを占めているとも言われています。
糖尿病腎症に早期診断が重要な理由
糖尿病腎症は、悪化すると腎不全に陥る危険性があることは先程お話した通りですが、それ以外にも、心臓や血管の病気を発症しやすくなります。一方、心臓や血管の病気を持っていると腎機能が低下しやすいことも報告されており、この相互関係を「心腎連関」と呼んでいます。
糖尿病腎症では、尿中にアルブミンが漏れ出しますが、この量が微量である早期腎症期に血糖コントロール等の適切な治療を行えば、寛解する可能性が高いと言われています。寛解すると腎不全や心血管疾患に発展するリスクも低下するため、できるだけ早期での発見と治療が大切になってくるのです。
早期診断に役立つ新しい診断マーカー「尿中L-FABP」
FABPとは脂肪酸結合蛋白の総称で、その肝臓タイプをL-FABPと呼んでいます。L-FABPは、肝臓と腎臓の尿細管に特異的に発現し、尿中では尿細管障害が発生している時だけ高値を示します。
L-FABPの最大の特徴は、組織障害が進行する前の尿細管の虚血や酸化ストレスによって尿中に排出されることです。つまり、障害が進行した結果ではなく、進行中の過程で検出されると考えられ、尿細管機能障害を伴う腎疾患の早期診断に有用だと言われています。
このためL-FABPは、アルブミン尿よりも早期に糖尿病腎症を把握できる可能性が示唆されているのです。
「尿中L-FABP」は、糖尿病腎症の進行リスクも判別可能!
糖尿病腎症前期でも「尿中L-FABP」が高値を示す
1型糖尿病、2型糖尿病患者の「尿中L-FABP」は、糖尿病の進行にしたがって増加がみられ、尿中に微量アルブミンが認められない腎症の前期であっても、健常な人と比べると高値であることが報告されています。
「尿中L-FABP」は糖尿病腎症の進行を把握する重要な判断基準
腎症前期の1型糖尿病患者のうち、「尿中L-FABP」の値が高い患者は早期腎症への進展が有意に認められました。さらに、2型糖尿病患者における腎症の進行危険因子としても「尿中L-FABP」が重要であることがわかっています。
糖尿病腎症は、GFRや尿中アルブミンからの経過予測が大変難しいと言われています。 そのため、病期の進行に伴って増加する「尿中L-FABP」は、腎症の進行を把握するための重要な判断基準として期待されているのです。
微量アルブミン尿期、または正常アルブミン尿期であっても、「尿中L-FABP」が高いと、その後の心血管疾患の発症率が高くなることがわかっています。
「尿中L-FABP」検査は今後有望な診断マーカー
尿中アルブミン検査の有用性と問題点
従来の糖尿病腎症の診断マーカーの中で最も広く用いられているのは、尿中アルブミンです。エビデンスもたくさんあり、糖尿病腎症検査のゴールドスタンダードと言えるでしょう。しかしながら、尿中アルブミンが正常範囲であっても心血管疾患の危険性があるケースも報告されています。また、保険の関係から糖尿病以外の腎疾患では尿中アルブミン検査を実施できないという問題点も抱えているのも事実です。
有望視される「尿中L-FABP」
「尿中L-FABP」は、エビデンスが豊富とはまだ言えません。しかし、前述の通り、近年、尿中アルブミンよりも早期に糖尿病腎症を診断できる可能性のある検体として注目を集めています。
2011年に保険収載も済み、3ヵ月に1回の測定や尿中微量アルブミン検査等、他の項目との同時算定も可能であることから今後有望な診断マーカーとして期待されています。
尿中-FABPの登場は、糖尿病腎症の治療だけでなく、新たな薬の開発も促すことになるでしょう。