[第2回]どうしてCOPDになるの?

COPDになる原因

COPDになる主な原因は煙草です。

昨今の禁煙啓発や煙草の値上がりなどがきっかけで「昔は吸っていたけど今はやめたよ」という方もいらっしゃるでしょう。でも、たとえ今は煙草を吸っていなくても、過去に10年以上喫煙していた人はCOPDになる可能性が充分ありますので、注意が必要です。また、いわゆる受動喫煙もCOPDになるリスクが高まると考えられます。

もちろん喫煙者の全員がCOPDになるというわけではありません。煙草を吸っていてもCOPDにならない喫煙感受性のない人もいます。でも残念ながら、喫煙者のうち15%程度は喫煙感受性があるとされ、喫煙感受性のある人が煙草を吸い続けるとCOPDになっていくと考えられています。

また、煙草以外にも、大気汚染や職業的粉じんなどでもCOPDになると言われています。ただ、COPD患者の大部分が40歳以上の喫煙者ですから、喫煙が主な原因であることに違いはありません。

COPDでは煙草などによる炎症性変化は、太い気管支から末梢の細気管支、肺胞まで認められます。
まず、気管支の壁は炎症を起こして厚くなり、内腔は狭くなります。痰が溜まって空気の流れが悪くなることもあります。これらは細気管支と呼ばれる気管支の末梢から始まり、気管支全体に及びます。

また、肺の実質である肺胞と呼ばれる部位では、煙草による炎症により肺胞を隔てる壁が破壊され、肺胞は本来よりも大きな空間となります(気腫性変化)。

この肺胞の壁で毛細血管と空気がふれあい、酸素と二酸化炭素の交換すなわち呼吸が行われていますので、これが破壊されてしまうと呼吸の効率が非常に悪くなるのです。

このような肺は、ちょうどゴムの伸びきった風船のようなもので、息を吐いたり吸ったりするとき気管支の狭窄と相まって息が吐き出しにくくなるのが特徴です。

特に、運動して速く呼吸をするときほどこの傾向は強く、空気の出し入れがしにくくなるのです。動いたときの呼吸困難はこのような理由で起ります。実際多くのCOPDでは重症になるまで、呼吸困難を訴えられるのは労作時でのみです。


気管支喘息との違いは?

では気管支喘息とはどこが違うのでしょうか。

気管支喘息もCOPDと同様の症状が出るのですが、基本的にはその症状は発作性のものです。また、明け方などに呼吸困難発作が起きるというのが典型的で、この点が動いたときのみ呼吸困難がでるCOPDとは区別されるところです。

肺や気管支の変化としては、気管支喘息では気管支にアレルギー性炎症を起こし、発作時には気管支の平滑筋の収縮も加わって狭くなりますが、治療等によりこのような狭窄は改善されるのがCOPDとの大きな違いです。

また、気管支喘息ではCOPDように肺胞の破壊は認められないことも鑑別点です。このことはCTスキャンや詳しく肺機能検査を行えば鑑別することができます。ただし、喫煙者の慢性喘息例などでは区別がつきにくいことも多く、COPDと喘息を合併していることもあります。

禁煙歴が長い人、その咳・痰はCOPDかもしれない 


COPDは、40歳以上の喫煙者が、風邪をひいた後など咳と痰が長引いたり、階段や坂道の歩行で同年齢の人より遅れてしまうことから気づかれることがありますが、実はこういった症状が起こるより前に、肺や気管支では上記の変化は先行しています。
ですから、こういった自覚症状が現れたときには、ある程度肺機能は低下していると思って間違いありません。

また、中には風邪などを契機として入院するほど息苦しくなって初めてCOPD と診断される例もあります。こういった増悪を繰り返し、どんどん症状が進行していく例があることも最近明らかになっています。

COPDは、気管支の壁が厚く・硬くなり肺胞が破壊された状態です。ですから、残念ながら治療をしても破壊された部分を完全に元の状態に戻すことはできません。そのため、早期に診断し、治療を開始して重症化させないことが何よりも大切だと言われるわけです。

まず、第一に禁煙することが、なによりも重要です。また、症状が軽い時期であるほど、適切な治療を開始して病気の進行を遅らせることができる疾患です。

たとえば定年後はゆっくり観光旅行を楽しみたいという人や、ハイキング・山歩きを楽しもうという人も多いと思います。せっかく自分の好きなことをする時間を持てたというのに、少し坂道や階段を歩いただけで息切れしては、景色を楽しむどころではないと思いませんか?

早期発見・早期治療で、たとえCOPDであっても生活の質を落とさず、「やりたいことができる生活」を維持することが可能です。医師の指示に従って治療・生活習慣の改善に取り組みませんか。

著者プロフィール:北 英夫(医師)
1987年京都大学医学部卒業。1998年より高槻赤十字病院 呼吸器科に勤務、2007年より呼吸器アレルギー内科(呼吸器科部)部長に就任。京都大学医学博士、京都大学臨床教授。
専門分野は呼吸器内科全般、睡眠時無呼吸症候群、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息。
日本呼吸器学会専門医・指導医、同代議員、日本内科学会認定内科専門医、指導医、同評議員、日本呼吸器内視鏡学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本感染症学会会員、日本睡眠学会会員、日本肺癌学会会員、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会評議員。

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